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透過型電子顕微鏡を用いたディーゼル噴霧火炎内すす粒子
生成・酸化過程の調査
光学計測のページでも説明されていますが,すす粒子排出を低減するためには,火炎中でのすす粒子の大きさや微細構造などを知ることが重要です.光学計測は火炎中での定性的な大きさの分布を計測するのに優れているのに対し,電子顕微鏡での解析は粒子一粒一粒の大きさ,形状,さらにはその内部構造までを定量的に計測するのに優れています.
電子顕微鏡は非常に高額な装置であり,通常は技官の方がついており,撮影を依頼してから解析にかけるための画像を得るのに数ヶ月かかることも少なくありません.しかし,相澤研では同学部物理学科の吉村英恭教授のご好意により,この電子顕微鏡を一定の経験を積むことで学生達自らが使用できる機会をいただいております.このおかげで,電子顕微鏡を用いた火炎内すす粒子の研究は飛躍的に効率化され,相澤研が世界をリードするテーマともなっております.
この恵まれた環境で,相澤研では定容燃焼器で模擬されたディーゼル噴霧火炎中に電子顕微鏡観察用グリッドを直接暴露することですす粒子を捕集し,すす粒子の電子顕微鏡観察及び解析を行っています.


図2. すす粒子サンプリング影写真
図1. 定容燃焼器(上)及びすす粒子捕集用サンプラー(下)
すす粒子は複数の要素すす粒子が凝集体を形成するブドウの房のような構造をしています.すす粒子の生成・成長過程を把握するためにはこの凝集体の大きさ(凝集体旋回半径:Rg)とそれを構成する要素すす粒子径dpの両方が必要です.さらにはこの要素すす粒子の内部は多感芳香族炭化水素が何層にも積層するタマネギのような構造をしていますが,この内部構造もすす粒子の核生成などを解明する鍵を握る重要な情報とされています.
捕集されたすす粒子は,これらの情報を得るためにその目的に応じて,電子顕微鏡により様々な倍率で撮影され,MATLABにより開発されたコードによって解析されます.統計的にきちんとしたデータを得るために一枚のグリッドサンプルに対し,数千個の粒子を解析にかけていますが,これらの解析は膨大な時間とノウハウを要する作業となっています.相澤研ではこれらを学生の人海戦術により処理し,短期間で高精度のデータを構築できる体制が確立されており,このことがこの分野で世界をリードする理由の一つともなっております.

図3. 電子顕微鏡を用いたすす粒子性状の解析手順
これらの解析を通して得られた結果の一例を以下の図に示します.
すす粒子の前駆物質とされている芳香族炭化水素の一つであるナフタレンを,芳香族成分を全く含まない燃料(FTD燃料)に添加し,その含有量によってどの程度火炎中のすす粒子性状が変化したのかを調べています.下図の緑で描かれた線が芳香族を含まないFTD燃料,赤が6.5%のナフタレンを含んだ結果となっています.この結果より,火炎の上流域ではナフタレンを加えた方が要素すす粒径dp,凝集体旋回半径Rgともに大きくなっており,前駆物質であるナフタレンを加えることですす生成が促進されることがわかりました.
一方すす粒子内部構造はナフタレンを添加した場合,下流域においてその層間隔Sfが狭まっていることがわかります.一般に酸化によりすす粒子の層間隔が狭まることが知られており,今回の結果についても同様に考えると,下流域の酸化についてはナフタレンを添加した方が促進されるということがわかりました.このことから燃料中のナフタレン添加は火炎内すす粒子の生成だけでなく,酸化過程にまで影響を与えることが明らかとなりました.
このようにすす粒子性状を定量的に解析することでこれまでの計測では見えてこなかった新しい考察を深めることが可能となります.



図4. 電子顕微鏡を用いたすす粒子性状解析結果の例
関連文献
K.Okabe, M.Sakai and T.Aizawa
"Aromatic Additive Effect on Soot Formation and Oxidation in Fischer-Tropsch Diesel(FTD) Spray Flame -Morphology and Nanostructure Analysis of In-Flame Soot Particles via HRTEM-"
SAE International Journal of Fuels and Lubricants, Vol.6(3), pp.807-816
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